「ア、アリオスっ!?」 一瞬の浮遊感。 え? と思う間も無く、視界が覆われ、ものすごい力に捕らわる。 グルッと目まいにも似た感覚に一瞬目を閉じ、そうして、目に映っ たのは、銀の髪の向こうから自分を見下ろす、ひどく思い詰めた金 と緑の瞳だった。 アリオス? と恋人の名を呼ぼうとしたアンジェリークだったが、 その声は出なかった。
「!!」 突然、口の中に押し込められる火の玉。 背骨がきしむほど抱きしめられ、驚きに凍えた舌をその熱い火の 玉に搦め捕られる。 アリオスに押し倒されて、キスされているのだと分かったのは、 当のアリオスでさえ、大きく肩で息をし始めた頃だった。 「ふ…くぅ…」 唇を捕らわれたまま、その大きな手で布越しに胸を捕まれる。 そこで霞みかけた意識が戻って、アンジェリークは身じろいだ。
いやな訳じゃない。 否、アンジェリークもアリオスと触れ合いたいと思っている。 でも。 一言、ありがとう、と言いたかった。 今まで支えてくれたことに『感謝の言葉』を伝えたかった。
「ん…ま、待って、アリオス…」 彼の唇の内で呟き、僅かに――言葉を発せるほどの距離を得よう と彼の逞しい胸板に手を置いた。 その抵抗とも思えぬ小さな動きが――アリオスを狂わせた。
ぐっと手首を掴まれると、両の方向へと押さえつけられる。 「え…」 心底びっくりして、アンジェリークは自分の上に覆い被さるよう に跨がったアリオスの顔を仰ぎ見た。
驚きに見上げる青緑の瞳に、弾け飛んだ理性の僅かな切片をかき 寄せて 「だめだ。待てない……。待てねぇんだ、アンジェ……」 呻くようにそう言うのが精一杯。 疑問の形に小さく開いた紅い唇に目がくらみ、再びそれを奪い貪っ た。 舌を捕らえたままで、押し入った口腔を蠢き犯す。 歯に当たった唇を、そのまま咬んで弾力を確かめる。 直ぐに口の端から零れるどちらのともつかない唾液が流れ始めた。 「ん……ふ…ぅん……」 乱れた息遣い。 漏れる甘い声――。
血迷う。 狂わされる。 止められない。 抑えられない。 もっと、もっと、と急かされ焦れる。
唇を放し――口の周りが赤くなるほど腫れているのを目に止めて ――栗色の髪を払いのけると、ほっそりした首筋を露にさせた。 匂い立つ甘い香りが鼻腔をくすぐり、懐かしさが胸に迫る。 堪らずに歯を立て、ちゅうと音を立てて吸い込んだ。 「あ…」 アンジェリークが小さく身震い。 おそらくはかなり痛かったのだろう。 そう分かっているのに止められない。 否。 目にしたのは紅い痕。 ――まだ、だ…。 ――もっともっと、俺の刻印で染め上げたい…。 頬擦りするようにあごをあげさせ、顕れたのどに吸い付く。 歯で咬み、舌で濡らして唇で弄ぶ。 白い咽に大きく押された紅い刻印に、ああ…とアリオスは満悦の 笑みを口に刻んだ。
首筋を味わいつつ、丸い膨らみを手の内に包む。 最初はわずかに指に力を込めて、だが、布越しにも関わらず柔ら かな弾力で沈み込む指の感覚にのぼせ上がった。 ぎゅう…と強く掴んで手ごたえを求める。 つん…と指先に当たった頂の感触。 ぴくっと身震いした華奢な躰。 もはや一刻の猶予もなく、すぐさま直に得ようと胴の布を掴んで たくしあげた。
ずるずるっと、スカートに入れ込まれたブラウスとスリップの裾 を引き上げる。 まだスカートのファスナーも緩めていなかったから、アンジェリーク 自身の背中に敷かれてひっかかるのがもどかしい。 強引に布を握って引きずりあげ、一気に首もとまでたくしあげた。 「………」 目にしたのは愛しい膨らみを覆う無粋なレース。 ――なんだよ、これ…。 と、眉をしかめ、その邪魔なレースをぐいっとずり上げた。
「…!」 ようやく顕れた。 まろやかな曲線を描く白い乳房。 ずり上げさせたブラジャーに圧迫され、さらにその膨らみが強調 され、その頂に乗る可憐な蕾が小さく震える。 ――俺の、ものだっ! 片方は手で鷲掴みにし、もう片方に喰らいつく。 頂を口に含むと、 「は…あ」 と、小さなため息が耳に響いた。 そのかわいい声が、アリオスの情欲を煽る――――雄の本能を揺 さぶる。 「…もっとだ」 もっともっと欲しい。 背中に回し込んだ手で、ようやくぷつっとホックを外す。圧迫か ら解放され、まろやかな膨らみがふるっと揺れた。 真っ白いふくよかな果実の先の薄紅の頂花。 ――全部、俺のものだ! 掌に落ちる質感――アリオスの手が覚えているより少し痩せてし まったけど――伝わる温かみ。 指が沈み込みそうなほどの柔らかさ。 どれほど指に力を込めて掴み揉み込んでも、弾き返される感触。 乳首を指で摘み上げ、クリクリっと指を前後に動かす。見る間に 硬度を増したのに昂ぶり、力を込めて擦り上げる。 口の中にある方は、転がし突っつき弄んだ末に、歯を立てカリッ と咬んだ。 「あ…あん…」 アンジェリークが息を詰め顔をシーツに埋めた。 露になった首筋には、さっき容赦なく付けた紅い痕。 所有の刻印――――。 それまで、性急に突き動かされつつも、まだ細い糸として残って いた理性が、大きく音を立てて千切れた。 「アンジェリーク!! 俺のものになれ!」
アンジェリークに跨がったままで、膝に敷き込んでいるスカート をまくりあげる。 ぱぁっと広がった淡い色の布の束。 現れたのは―― なだらかな下腹と可愛く窪んだ臍。 ほっそりした太もも。 そうして男を狂わすふくよかな曲線を描いたビーナスの丘――。
だが、一番欲しいその丘が、相変わらず無粋なレースに包まれて いる。 ――なんでこんなもので隠すんだよ。 と、半分本気で焦れる。 ぐっと手をかけ一気に引き下げる。 あまりに一気にしすぎて、アンジェリークの白い太ももには、うっ すらと紅い筋が、アリオスの爪痕がついた。 「…………」 悪い、と微かに思った。 だが。 ――もう一つ俺の痕がついた…。 と、悦ぶ心がある。
それほど――――アリオスは飢えていた。
淡い色の柔草に覆われた、なだらかでふくよかな丘。 自分だけが目にする絶景。 容赦なく膝で膝をこじ開け躰を割り込ませ、股に手を置き、左右 に開く。美しい丘から、可憐で艶やかな花が覗いた。 ――ああ…。 魅せられる。 どうしようもなく。 早速に指を潜り込ませてみたが、まだ微かに湿っている程度。あ の可愛い手ごたえを与えてくれた蕾は、ろくに育っていなかった。 ――当たり前だ…。 そう察することが出来るのに。 指先のぬめりに、芳しい香りに、頭の芯が真っ白になる。
アンジェリークがいるのだ。 すぐ目の前に。
片手で蕾を探り襞を撫でつつも、アリオスはもう片方で前をくつ ろげ、己を取り出した。 それは自分でも驚くほどだった。 ぶっくりと張り膨れビンッと音がするほど強固で、恐ろしいほど 巨大な肉棒。血管が浮き出てどくどくと脈打ち、火傷するかと思う ほど熱い。薄膜をまくって膨れ上がった先から、歓喜の液が滲みで る。 長く押し込めた欲望は膨張し、増殖し、解放を希う猛々しい凶器 へと育っていた。
――これでやるのか? この凶器でこの可憐な花を散らすのか…と。 手に持つ己の分身の凶暴さに、アリオス自身が畏れる。 ――かわいそうじゃねぇか…。 酷さに胸が痛む。 ――――――頭で分かっているのに。 ――――――やめろ、と制する声が聞こえるのに。
抑えられない。
アリオスの制御を振り切り、まるで違う意志を持つかのように、 手は花を大きく拡げ、凶器を宛てがった。 「あ…」 宛てがわれたものの感触に、アンジェリークが伺うように見上げ る。 ひどいと思う。 だけど、今すぐ欲しい。 「アンジェ…悪い……」 呻くように呟いた声を、果たしてアンジェリークの耳に届いたの だろうか?
アリオスの意志を振り切った本能が、愛しい花に凶器を突き立てた。
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